マルウェア

StegBaus: XORだけでは不十分なこともあるので...

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概要

この1週間、私たちのチームは、過去の経験に照らし合わせて、複数の既知のマルウェア ファミリに合致するマルウェア サンプルの集団を突き止めました。これらのサンプルは、いずれもそれぞれの典型的なマルウェア特性を示し、これらのファミリに由来する既知のコマンド アンド コントロール(C2)サーバにアクセスしました。しかし、最初の静的分析では、これらのサンプルは見た目上ではすべて同一のものでしたので、私たちは新型のローダーを1つ発見したものと思い込んでいました。このときに突き止めたマルウェア ファミリにはDarkComet、LuminosityLink RAT、Pony、ImmenentMonitorのほか、複数のシェルコードが少々ありました。特別仕様のステガノグラフィーの使用、および埋め込み型DLLの中に見られるPDB文字列に因んで、私たちはこの悪意のあるローダーをStegBausと呼んでいます。

前記マルウェア ファミリが以前関与したことのある感染事例が多数あるため、攻撃者にこうしたマルウェア ファミリを被害者のコンピュータ上での実行を容易にさせてしまうローディング手法は新しいものなら何であれ、真剣に受け止める必要があります。また、感染の疑いがあるもののまだ感染とは言い切れないものを見極める努力を優先して行う必要があります。

本件のローダーは非常に多くの点で特異です。最も目を引くのは、ローダー設定の他に最終ペイロードも隠すのに使われているステガノグラフィーです。この機能については分析セクションで後述します。ローダーは一般的な手法も利用します。例えばRunPEという方法により、最終ペイロードを新しいプロセスとしてメモリにロードします。この方法は何年にもわたってネット上で確認されており、通常、ホスト プロセス、コンテキストのスレッド化、およびメモリ割り当てを利用します。こうしたステップはローダー内では比較的静的なものであるように見えるかもしれませんが、若干の違いがあります。この違いを、私たちは導入時刻に基づいて識別することができました。一例として、大多数のサンプルがネット上で確認される前に少なくとも6か月のテストに使われたと思われるサンプルがあります。

配信

StegBausローダーに類似しているコードベースを伴った.NET 実行ファイルは、元々、2016年の中頃にテストされていることが確認されていました。そのときは、難読化の程度は今のものよりも低く、テスト用の語句や文字列が追加されていました。同じ特徴を有する関連サンプルを探し求めている間に、私たちはKazyLoaderという.NETパッカーが類似の機能を備えていることを突き止めることができました。KazyLoaderは、BMPファイルにおけるデータ隠しの手段に加えて、類似の暗号化スキームも提供しています。こうした類似点はあるものの、StegBausにおいては巧妙化が進み、KazyLoaderコードベースの可視性が限定されていることから、この2つのファミリを結びつけることは非常に困難です。

Palo Alto Networksが特定することができたStegBausの最初のインスタンスは、2016年12月30日に確認されましたが、このときは多数のサンプルが付随していました。これらのサンプルはその後、存在が確認され続けています。StegBausが配信しているマルウェア ファミリはすべて商品として流通しているマルウェアであり、その多くは過去にソースコードがネットに漏えいしました。この事実により、StegBausの作成者が自分専用のサンプルを作成したのか、ネット上にで見つけたサンプルを再利用したのか、あるいはこのマルウェア ファミリを犯罪活動に利用しているグループと結びつきがあるのか、判断するのは困難です。

ネット上にあるStegBuasを配信するのにいちばんよく使われているファイル名は以下のとおりです。

  • image44.scr
  • barbiure.exe
  • image56.scr
  • image.scr
  • corben.exe
  • picture.scr
  • Netsparker.exe

最も一般的なHTTP接続情報は以下のとおりです。

  • Kimki[.]ru , POST , /chamber/panelnew/gate.php
  • kimki[.]ru, POST, /nelson/panelnew/gate.php
  • kimki[.]ru , POST , /emeka/panelnew/gate.php
  • oxylala[.]gdn , POST , /emeka/panelnew/gate.php
  • oxylala[.]gdn , POST , /charly/panelnew/gate.php
  • oxylala[.]gdn , POST , /asaba/panelnew/gate.php
  • oxylala[.]gdn , POST , /victor/panelnew/gate.php
  • oxylala[.]gdn , POST , /mandela/panelnew/gate.php
  • oxylala[.]gdn , POST , /asaba/panelnew/gate.php
  • minecon[.]co, POST, /Panel/gate.php
  • informer.pe[.]hu , POST , /Server/

最も一般的なDNSクエリは以下のとおりです。

  • custom[.]generatione[.]tech
  • goodluckjayjay[.]duckdns[.]org
  • slyopeznetwr[.]ddns[.]net
  • 11live[.]zapto[.]org
  • goodluckyugo[.]duckdns[.]org
  • akudon[.]chickenkiller[.]com
  • informer[.]pe[.]hu
  • files[.]catbox[.]moe
  • tags[.]bkrtx[.]com
  • sg[.]symcb[.]com
  • minecon[.]co
  • kimki[.]ru
  • oxylala[.]gdn

分析

まず、StegBausは.NETのコンパイル済み実行ファイルという形で配信されており、この実行ファイルはConfuser v1.9.0.0の難読化を利用しています。最初に行ったサンプルの静的分析により、.NETリソースとして埋め込まれているPNG (portable network graphics)画像ファイルが複数あることが分かっています。下の図にこれらを示しています。

図1 PNGリソースファイル
図1 PNGリソースファイル

実行時に、StegBausは新たにDLLをメモリ空間にロードし、実行をDLLのメイン関数に任せます。このメイン関数は、のちのサンプルでは単独の文字(A、K、またはQ)にリネームされています。このDLLは完全に難読化を解除してあり、分析対象となったどのバリエーションにおいても、内部名がA.dllであることが分かりました。この関数は難読化が一切されていないため、図2に示すとおり、はっきりと読むことができます。

図2 関数一覧
図2 関数一覧

上の関数一覧から分かるように、StegBausには比較的単純なことを行うと思われる関数が多数含まれています。これらの関数の分析を終えてみると、関数はその名前が示すことを実際にその通りに行うことが明らかになりました。各関数についての完全な分析結果はご紹介しませんが、最も興味深い関数の一部について、データを隠す手法を説明しながら考察をして行きます。

最初の、難読化が著しく施されている実行ファイルを分析し、埋め込み済みリソースを発見した結果、私たちは任意のリソース用のこのDLLについても調査することにしました。すると、作成者がこのリソース セクションを使って、Base64エンコード済みデータのblobを多数埋め込んでいることが分かりました。その様子を下の図3に示します。

図3 埋め込み済みのBase64エンコーディング
図3 埋め込み済みのBase64エンコーディング

図3に示すリソースは、2つともBase64エンコード済みデータを含んでおり、Base64エンコード済みデータはいずれも別々のDLLにデコードされます。これらのDLLの名前はそれぞれimg2data.dllとCreateShortct.dllとなっています。CreateShortct.dllファイルは、現在のユーザーのStartupフォルダーを見つけ、元の実行ファイルへのショートカットを、ランダムな8文字の名前使って作成するのに使われます。一方、img2data.dllの方はもう少し興味深いものなのでデータ隠しのセクションで取り上げます。

CreateShortct.dllには以下のPDB文字列が含まれていますが、この文字列がこのマルウェアの命名に使われました。

データ隠し

img2data.dllファイルには、.NET Framework内にある多数のライブラリを利用して画像をデータ ストリームに変換する専用関数が含まれています。この関数の実際のコードを以下に示します。

図4 ImagesToData関数
図4 ImagesToData関数

このコードの実装はここにありますので、System.Drawingへのライブラリ参照を追加することでVisual StudioでC#としてコンパイルすることができます。提供済みのデコーダは、元の名前とともにPNGリソースファイルをすべて含むディレクトリの名前を受け取り、バイナリ ファイルを出力します。この出力ファイルは分析を継続するのに使うことができます。

img2data.dllはA.dll内のConvertImagesToData関数が利用します。この関数は、.NETモジュール ローディング手法を使って単純にDLLをメモリにロードし、データ ストレージ用にバッファを作成します。基本的に、img2data.dllは元の実行ファイル内のリソースを見つけ、すべてのrawバイトを、操作される前にメモリ ストリームに読み込みます。このデータは、利用可能なデータ ストリームに変換され、グローバル バッファに保存されると、次に復号化処理を複数回施されます。これについてはこの後で考察します。

暗号化

ステガノグラフィーによるデータ隠しは極めて有効な情報隠ぺい手段ですが、マルウェアの作成者はAES暗号化の利用も必要であることに気が付きました。具体的には、System.Security.Cryptographyに属しているRinjndaelManaged関数が、AES-128を使ったデータ復号化に使われます。

マルウェアをデバッグし、cryptoルーチンを1ステップずつ読み進めている中で、私たちは最初のパスワードを容易に突き止めることができました。このパスワードは、AESルーチン用のキーおよび初期化ベクトル(IV)を作成するのに使われます。パスワードは、元の実行ファイルのSTARTUP_INFORMATION構造体からタイムスタンプを特定してまとめたものです。そして、次にこの値に一連の算術演算処理が施されます。すると、この情報が新しいGUIDを作成するのに使われますが、今度はこのGUIDが8文字に切り詰められ、パスワードとして使われます。分析対象のサンプル用のパスワードは"d1ee1095"ですが、これはデバッグと実行の最中に見つけることが容易にできます。次に、この値がPassword-Based Key Derivation Function 2 (PBKDF2)を介して処理されますので、その処理結果を、32バイト値と16バイト値の両方に関して、16進エンコードすることができます。32バイト値用の戻り値がキーで、16バイト値用の戻り値がIVです。

キーとIVが生成されると、CBCモードのAESを使って復号化処理が進行します。パスワードが判明すれば、以下のスクリプトを使ってデータの復号化を行うことができます。

データの復号化が終わってみると、結果は予想外のものでした。人間が読めるデータが全くないのです。そこで、さらにデバッグ作業を進め、使われている別の手法が何かないか突き止めることになりました。この場合、作成者はステガノグラフィーとAES暗号化を使うだけでは不十分で、同じAES実装を使ってデータの暗号化を2回行わなければならない、と判断しました。上記と同じスクリプト、および既に戻ってきたタイムスタンプの10進表現"1484648550"を使うことで、私たちは復号化の2回目の繰り返しに使うキーとIVを突き止めることができます。今度は、人間が読むことのできる設定ファイルらしきものが得られました。それには以下のデータが含まれています。

  • Emulation (エミュレーション)
  • Install (インストール)
  • Notify (通知)
  • Options.Compress
  • Options.CheckVM
  • Options.CheckSandbox
  • Options.DelayTime
  • Options.MonitorPackage
  • Options.MonitorRegistry
  • Options.MonitorSelf
  • Options.HostIndex
  • Options.UACBypass
  • Files.Main
  • Files.Count

最終的に、前述の復号化が終わると、StegBaus設定オプションが下図のように読める形になりました。これらのオプションは、どの追加の関数がA.dll内で呼ばれることになるかを示しています。既に示したように、追加の関数が多数ありますが、オプションを有効にする設定がされるまで使われません。この設定オプションに加え、復号化済みデータも最終ペーロードが含んでおり、分析対象の複数のサンプル内に、2つの異なる形式で表現されています。

図5 復号化済みのデータ形式(プレーンテキスト対zlib)
図5 復号化済みのデータ形式(プレーンテキスト対zlib)

上の図で分かるとおり、復号化済みのデータ バッファの中にある2つの異なるデータ表現とは、プレーンテキストおよびzlibによる圧縮済みデータblobです。特定された最初のサンプルの一部では、上述の復号化の段階が実際にはデータ隠しの最終段階であり、この実行ファイルはその段階でRunPEメソッドを使ってメモリにロードされます。分析対象の最新のサンプルは、zlibによる圧縮を利用して、復号化済みデータ バッファ内に最終ペイロードをこれまでよりもいっそう見つけにくくします。解凍処理はDecompress関数内で完結します。これについては図2の中にA.dllの一部として示されています。最終ペイロードは、解凍されると新しいプロセスとして、やはりRunPEメソッドによってメモリにロードされます。

結論

特定されたStegBausローダーには高度化したデータ隠しの手法が多数含まれており、このローダーは商品として流通している様々なマルウェア ファミリを多数配信しています。

現時点で、WildFireによりこのローダーそれ自体がマルウェアとして識別されていますので、Autofocusでも見ることができます。Palo Alto Networksはこの悪意のあるローダーを挙動識別子により検出しており、こうした手段で配信されているマルウェア ファミリの識別もしています。

この特異なマルウェア ファミリについてご教示いただいた脅威アナリストのBrandon Levene氏に感謝いたします。分析済みサンプル内で特定された特徴から、StegBausローダーを利用している250個以上のサンプルを発見することができました。これらはすべて、WildFireでマルウェアとして識別されました。

参考情報

SHA256ハッシュ

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