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ChromeLoader: 新たな継続的マルウェアキャンペーン

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概要

2022年1月、ChromeLoader(Choziosi Loader、ChromeBackとも呼ばれる)と名付けられた新しいブラウザハイジャッカー/アドウェアキャンペーンが発見されました。単純なマルバタイジング(悪意のある広告)しか使っていませんが、このマルウェアは広く拡散して数千におよぶユーザー・組織のデータを流出させた可能性があります。

Windowsの実行ファイル(.exe)やダイナミック リンク ライブラリ(.dll)といった従来のマルウェアの代わりに、このマルウェアの作者はブラウザ拡張機能を最終ペイロードとして使っていました。このブラウザ拡張機能は、アドウェア/インフォスティーラとして機能し、ユーザーの検索エンジン クエリをすべて漏えいさせます。同キャンペーンの進行中、たえず大幅な機能変更や追加が見つかっていることから、これが続けば今後もさらなる変化があるものと予想されます。

本稿は同マルウェアの技術的詳細を検証し、異なるバージョン間の進化に焦点を当て、その感染プロセスの変化を解説します。このほかこれまでに公開済みの報告がない新たな亜種についても検証します。

Cortex XDRWildFireをご利用中のパロアルトネットワークスのお客様は、この新たに発見されたマルウェアに対する保護を特段の設定変更なしに自動で受けられます。

本稿で解説する主なマルウェア ChromeLoader, Choziosi Loader, ChromeBack

目次

ChromeLoaderマルウェアとは
感染ベクトル(亜種1)
展開
ドロッパーの統計
ペイロード
インフォスティーラとアドウェア
バージョン管理
macOS版の亜種
2つめのWindows版亜種(亜種2)
本当の最初のWindows亜種(亜種0)
結論
製品による保護
IoC
追加リソース

ChromeLoaderマルウェアとは

ChromeLoaderは多段型マルウェアの一種です。各亜種は感染チェーン全体でそれぞれに異なる段階を使いはしているものの、どの亜種でも悪意のあるブラウザ拡張機能が利用されているなど、その感染チェーンは異なる亜種間でよく似ていることが多いようです。

私たちが追跡したさまざまなペイロードの拡張機能には、攻撃者がハードコードしたバージョン番号が追加されていました。このラベリングのおかげで、私たちの調査プロセスは楽になりました。異なるバージョンを同一キャンペーンに関連付けられ、正しい時系列順に並べることもできました。

さまざまな拡張機能のバージョンはこのマルウェアの異なる亜種と関連しています。私たちは、関連する拡張機能のバージョンのほかに、感染チェーンで使われたテクニックや標的となるオペレーティングシステムによっても亜種を区別しています。

本稿では、異なる亜種を検出順に解説し、それらを以下の名前で言及します。

亜種0: 最初に実地利用されているのが見つかった亜種1より前にアクティブだった亜種のため、この名が付きました。これはAutoHotKey(AHK)を組み込んだ実行ファイルとChrome拡張機能のバージョン1.0を使っていました。最初の攻撃は12月に発生しました。本稿ではこの亜種を4番目に説明します(「本当の最初のWindows亜種」セクションを参照)。

亜種1: 最初に説明する亜種です (「感染ベクトル」セクションを参照)。ペイロードにはChrome拡張機能のバージョン2.0~4.4、ドロッパーには難読化されたPowerShellを起動する.NETの実行ファイルを使っています。この亜種は主に1月にアクティブでした。

亜種2: この亜種は3番目に説明します(「2つめのWindows亜種」セクションを参照)。これはChrome拡張機能バージョン6.0を使い、難読化された実行ファイルを最初のドロッパーとして使っています。この亜種は3月からアクティブになっています。

macOS版亜種: 2番めに説明します(「macOS版の亜種」セクションを参照)。この亜種はmacOSコンピュータにフォーカスしています(他の亜種はWindowsユーザーのみが対象です)。これはバージョン6.0の拡張機能を使っています。3月からアクティブです。

ChromeLoaderのさまざまな亜種がたどる感染チェーン: 悪意のある広告やツイート、ダウンロードしたファイル、ドロッパー、Chrome拡張機能の順に進む。
図1. さまざまな亜種の感染チェーン

感染ベクトル(亜種1)

ChromeLoader マルウェアの1つめの亜種(亜種1)は2022年1月に初めて確認されました。

広告サイトやソーシャルメディア上のマルバタイジング(不正広告)キャンペーンによりユーザーをトレントやクラックされたビデオゲームのダウンロードへと誘導するところからイベントチェーンが始まります。ユーザーがこれらのWebページ上のQRコードをスキャンすると、ISOイメージ(CD/DVDで一般的に使用される光ディスクのイメージファイル)をホストしている侵害済みのWebサイトにリダイレクトされます。ユーザーは、ISOイメージをダウンロードし、ダブルクリックしてマウントし、マウントされたISOイメージに含まれるコンテンツを実行します。

この画像は「The five nights at Freddy」をダウンロードするQRコードと思われるもの。
図2. Twitterに投稿されたQRコードの例
このスクリーンショットは「Five Nights at Freddy」と思われるもの
図3. QRコードから不正なISOイメージへのダウンロードリンクの例

展開

ここでダウンロードされるISOイメージの内容は以下の通りです。

  • Microsoft.Win32.TaskScheduler.dll: Microsoftによる署名がついた正規の.NET DLL。他の.NETプログラムはこれを使ってタスク スケジューラ機能と組み合わせる。
  • 言語のフォルダ: 先のDLLが使うリソースファイルを含む。
  • CS_installer.exeとその設定ファイル: マルウェアの作者が書いた悪意のある実行ファイル(バージョンによって名前が変わる可能性があることに注意)。バージョンによってはデバッグデータを含むPDBファイルがこのフォルダ内に残っていることがある(おそらくこれはミスによるもの)。
  • _meta.txt: このマルウェアの後のバージョンに見られるテキストファイル。スクランブルされたASCII文字が含まれている。

このフォルダ内のファイルはほとんどが隠しファイルで、一般のユーザーがWindowsのファイルエクスプローラーでこのディレクトリを開いても気づかないようにしてあります。表示されているファイルはCS_installer.exeのみです。被害者はこのファイルをダブルクリックしてソフトウェアのダウンロードとインストールを完了するよう誘導されます。

Selecting
図4. マウントされる悪意のあるISOイメージの例(隠しファイルの表示を有効にした場合)。

被害者はCS_installer.exeをダブルクリックして起動します。たいていは実行ファイルが図5に示したようなメッセージを表示し、プログラムの実行に失敗したことを知らせます。ただしこれは被害者が誤解するように仕向けているものです。

このスクリーンショットは、誤解を招くメッセージボックスが表示されています。It says,
図5. ドロッパーが表示するメッセージボックス。ユーザーを誤解させる意図がある

実行ファイルは.NETで書かれた難読化されていないプログラムです。.NETリフレクターでこれを逆コンパイルすればソースコードを読めます。実行ファイルをリフレクターにロードすると、図6に示すコードが表示されます。このコードは、悪意のあるbase64エンコードされたPowerShellコマンドを10分ごとに実行するように設定されたスケジュールタスクを作成するものです。このタスク名は「Chrome」という文字列とnamesDict配列のランダムなサフィックスを連結して作成されます。

この図はCS_installer.exeをデコンパイルしたソースコードです。メッセージボックスを開き、悪意のあるタスクが既に存在するかどうかを確認し、Chrome*という名前の新しい悪意のあるタスクを作成する箇所に注釈を表示しています。
図6. CS_installer.exeのソースコードをデコンパイルした例


このスクリプトの内容は_meta.txtファイルから来ています。図7の定義済み関数がそのスクランブルを解除し、単純な文字列の置換を行います。

ここで紹介する定義済み関数が、_meta.txtファイル内のスクリプト内容を単純な文字列の置換を行い、スクランブルを解除します。
図7 スクランブルを解除する関数の例

このマルウェアの以前のバージョンでは、先に言及した機能の一部は存在していませんでした。たとえば、図6と図7で示したバージョンのほんの1週間前に発見された図8のバージョンでは、作者はスクランブル解除の関数を使用せず、シンプルに.NET実行ファイル内にエンコードしたPowerShellスクリプトをハードコードしているだけでしたし、ランダムなサフィックスを生成したりせず、定義済みのChromeLoaderという名前をタスクに使っていました。

この図に示す古いバージョンの悪意あるChromeLoaderブラウザ拡張機能ではスクランブル解除用の関数を使用しておらず、シンプルに.NET実行ファイル内にエンコードしたPowerShellスクリプトをハードコードしている。また、ランダムなサフィックスを生成せず、定義済みのChromeLoaderという名前をタスクに使っている
図8 亜種1の古いバージョンのソースコードの例

攻撃者は、エンコードしたPowerShellスクリプトを使い、悪意のあるブラウザ拡張機能をユーザーのChromeブラウザにダウンロードして読み込みます。

ChromeLoader内の変数定義
図9 PowerShellドロッパーの変数定義の例
この図はChromeLoaderのペイロードダウンロード試行部分を示したもの。コード内には、接続成功時にスケジュールタスクを削除している場所と、ペイロードをダウンロード・抽出する箇所を注釈で示してある
図10 ペイロードのダウンロード試行例
このスクリーンショットは、Get-ProcessとStart-Processが、ChromeLoaderのペイロードをユーザーにロードしようとする様子を示している
図11 ユーザーのブラウザにペイロードを読み込もうとしているところ

このマルウェアの初期バージョンから後期バージョンへの進化は、エンコードされているPowerShellスクリプトにも見て取れます。図12は、この亜種の初期バージョンが実行したPowerShellスクリプトを示したものです。かなり短く、複雑なコードは含まれていません。

この亜種の初期バージョンが実行したPowerShellスクリプトを示したもの。かなり短く、複雑なコードは含まれていない
図12. PowerShellドロッパーの旧バージョンの例

ドロッパーの統計

弊社Cortex XDRをご利用中のお客様に対するChromeLoaderによる攻撃は、同キャンペーン初日から振る舞い脅威防御(Behavioral Threat Protection)モジュールでブロックされていましたが、防御されなかった場合の攻撃の次の段階がどのようなものか気になりました。そこで、攻撃者のフットプリントとその意図を追って調査を続けることにしました。

スケジュールされたタスクは、マルウェアを使って悪意のあるChrome拡張機能をダウンロードし、被害者のブラウザにインストールします。このChrome拡張機能のホストされているURLは難読化済みPowerShellコマンド内にハードコードされていて、バージョン間で違いがあります。

インストールサーバーの一覧(左)と初回の接続試行日(右)
インストールサーバーの一覧(左)と初回の接続試行日(右)
ilsandothe 1.5%, yeconnected 3.1%, idwhitdoe 4.6%, rsonalrecom 3.1%, ithconsukultin 7.7%, etterismype 10.8%, yflexibilituky 38.5%, learnataloukt 12.3%, brokenna 15.4%
図14. インストールサーバーごとの接続試行数の割合
米国56、欧州8、カナダ1 - 地域ごとのブロックされた感染数内訳
図15 地域ごとのブロックされた感染数内訳
亜種1におけるインストールサーバーごとの1日あたりの感染試行回数
図16 亜種1が最もアクティブだった期間における、インストールサーバーごとの1日あたりの感染試行回数

ペイロード

マルウェアのペイロードはChrome拡張機能です。ダウンロード可能な拡張機能はすべて同じフォーマットをもっています。

ダウンロードされた拡張機能ファイル: background.js、conf.js、manifest.json、settings.png
図17 ダウンロードされた拡張機能ファイルの例

manifestファイル内の定義を複数使い、よく知られた正規の画像を使うことで、この拡張機能は正当で無害なものであると主張します。ただしこの拡張機能は特権の昇格を求めてきます。求められる特権は、ブラウザのデータへのアクセス、Webリクエストの操作、可能な限りのURLアドレスへのアクセスなど、正規のブラウザ拡張機能であれば不要なものです。

この図では、ダウンロードされた拡張機能が正規のものであるかのように装っている箇所に注釈をつけてある
図18. ダウンロードされた拡張機能のmanifestファイルの例

JavaScriptファイルのconf.jsではローカル変数の宣言をしています。これらは、後でメインスクリプトbackground.jsが使用します。C2ドメインは_ExtDomNoSchemaに格納されています。

conf.jsはローカル変数を宣言しており、★係り受けチェック★後でメインスクリプトのbackground.jsを使用することになる。
図19 ダウンロードされた拡張機能のconf.jsファイルの例

background.jsは、1行のJavaScriptファイルで、ここに拡張機能のすべての機能が含まれています。高度に難読化されていますが、いくつか手順を踏めば読みやすいJavaScriptコードに変換できます。ただし、既存のJavaScript難読化解除ツールでコードの難読化を解除しようとしても後述する理由で失敗します。

ダウンロードした拡張機能の例
図20 ダウンロードした拡張機能の難読化されたbackground.jsファイルの例

このスクリプトは、目的と悪意のあるコードの隠蔽のため、さまざまな難読化技術を使用しています。最初に実行される関数の1つは、標準的なJavaScriptの関数やオブジェクトを、スクランブルされた名前にリネームした新しいオブジェクトにコピーする役割を担っています。これらのオブジェクトが、このスクリプト最後の命令群に含まれる最終ペイロードをデコードするさいに使用されることになります。

このコードはChromeLoaderの一部であるリネームの仕組みを表しています。
図21. リネームの仕組みの例。たとえばここではStringオブジェクトがb4VVにリネームされて格納されている

この作者はスクリプト実行中にswitch文を好んでプログラムに使うことでマルウェアアナリストがプログラムを読解しづらいようにしています。

この作者はスクリプト実行中にswitch文を好んでプログラムに使うことでマルウェアアナリストがプログラムを読解しづらいようにしています。
図22. switch文を使ったプログラミング例

このプログラムは、図22の上に示した変数E3を使ってループしていて、E3の値が変わると動作も変わります。switch文内の対応するcase節のフローが終了すると、プログラムはE3の値を変更して次の命令に移ります。またこのプログラムは先に説明した名前のスクランブルされたオブジェクト名を使います。図22は該当コード行の下にコメントでリネーム前のオブジェクト名を追加したものです。

スクランブルされた名前とswitch文を好むプログラミング作法がわかれば、このコードセクションの目的を分析しやすくなります。このコードは、ハードコードされた長さが4の整数型配列を使って、それを対応するASCII文字に変換し、ランダムな順序に並べ替えます。後でこの配列が結合されて1つの文字列になり、プログラムはその名前で定義された関数を検索します。対象の関数が見つからなければ、実行フローは最初からやり直しになります。

この段階では、このスクリプトのもう1つの難読化テクニックが明らかになります。標準的な難読化解除ツールが使う重要な機能の1つに、参照されていない関数やオブジェクトを削除する機能があります。多くの場合、この機能を使えばコードを短くできます。実行されることのない複雑な部分は取り除けるし、マルウェアアナリストを混乱させるためだけに存在する関数を削除できるからです。しかしこのスクリプトの場合、難読化解除ツールを使うと必要な関数まで削除されてしまってスクリプトが無限ループに陥ります。

関数h0QQはスクリプト実行中には一度も直接参照されていません。しかし、先に述べたランダムな並べ替えアルゴリズムを用いたコードの部分で、h0QQという文字列は0hQQという文字列の綴り変えになっているので、いずれは実行が試みられることになります。h0QQが存在しなければ、このコードはただ文字を並べ替えて関数名を繰り返し探そうとします。

参照されていないが重要な関数(h0QQ)の例
図23. 参照されていないが重要な関数の例

この関数は、長いスクランブルされた文字列をハードコードされたキーでXORし、文字列型配列に分割して返します。

参照されないが重要な関数はハードコードされているキーでXORした長いスクランブル文字列を返し、それを文字列型配列に分割する。この図はマルウェアが使用する文字列を含む、XORを復号した配列の例。
図24. マルウェアが使用する文字列を含む、XORを復号した配列の例

マルウェアは最終的にこれらの文字列を使って悪意のあるコードをデコードします。そのさいは、コード中に文字列名をハードコードせず、先の文字列型配列で該当するインデックス位置の文字列を参照します。

マルウェアが最終ペイロードをデコードするためにXORを復号した配列を使用した例。またこのマルウェアは配列のインデックスに整数ではなく、算術演算と組み合わせた文字列を使用していることが見てとれます。
図25 マルウェアが最終ペイロードをデコードするためにXORを復号した配列を使用した例。またこのマルウェアは配列のインデックスに整数ではなく、算術演算と組み合わせた文字列を使用していることが見てとれる

デバッガを使って初期化コードを実行後、上記リストのメンバーをエクスポートしました。その後、Pythonスクリプトで、JavaScriptコードの残りの部分の難読化を解除しました。

PythonスクリプトでJavaScriptコードの残りの部分の難読化を解除したところ
図26. background.jsの難読化解除に使用したスクリプト

インフォスティーラとアドウェア

悪意のある拡張機能との通信には、以前拡張機能をインストールした際に使用したインストールサーバーとは別のコマンド&コントロールサーバ(C2)が使われます。このマルウェアはさまざまな拡張機能を使用してユーザーのブラウザに強固な足場を築きます。

拡張機能をインストールすると、図のように2つのChromeアラームが追加されます。
図27. マルウェアがインストールするアラームの例

拡張機能をインストールすると2つのChromeアラームが追加されます(アラームを使うと開発者が定期的にトリガーされるコールバック/スケジュールタスクをインストールできるようになる)。これらのアラームがトリガーされると対応する2つの関数が呼び出されます。

  • adアラームがトリガーされるとこの拡張機能はC2に広告を要求し、新しいタブに表示します。
  • hbコールバックがトリガーされるとC2と通信する関数をトリガーして現在の実行状態を知らせます。
このコードには、アラームがトリガーされたさいの結果を表示しています。adアラームがトリガーされると拡張機能はC2に広告を要求します。hbコールバックがトリガーされると拡張機能はC2に現在の実行状態を知らせます。
図28 マルウェアのアラームがトリガーされたさいの応答例

また図29に示したコードにも興味深い活動が見られます。この拡張機能はリスナーをインストールし、このリスナーを使って送出されるすべてのリクエストを傍受します。そしてこの傍受したリクエストがGoogle、Yahoo、Bingのいずれかの検索エンジンに送信されたかどうかをチェックします。これらいずれかの検索エンジンに送信されていた場合、この拡張機能は検索内容をC2に送信し、被害者の考えていることや関心事を漏出させます。

この拡張機能はリスナーをインストールし、このリスナーを使って送出されるすべてのリクエストを傍受します。そしてこの傍受したリクエストがGoogle、Yahoo、Bingのいずれかの検索エンジンに送信されたかどうかをチェックします。これらいずれかの検索エンジンに送信されていた場合、この拡張機能は検索内容をC2に送信し、被害者の考えていることや関心事を漏出させます。
図29. ブラウザハイジャック機能の例

また、拡張機能が正しく実行されていることを確認するためにさまざまなメカニズムが使われています。その例を以下にあげます。

  • C2への各送信パケットにddというハードコードされたヘッダを付けている。これを使うことでC2が異なるディストリビューションチャネルやアフィリエイトを識別できる。
この図に示すとおり、C2への各送信パケットには、ddというハードコードされたヘッダが使用されている。これを使うことでC2が異なるディストリビューションチャネルやアフィリエイトを識別できる。
図30. 追加されたddヘッダの例
  • 検索候補をキャンセルする。その理由はおそらく、ユーザーが意図した検索クエリであることを確認するため。
  • 既存のChrome拡張機能をブラウザからアンインストールする。なお、選択した拡張機能は削除の対象から外すために、拡張機能名をC2に送信してallowlistというjsonを受け取っている。
  • この悪意のある拡張機能をアンインストールできないよう、chrome://extensionsへのアクセスをすべて無効にし、代わりにchrome://settingsを開く。

バージョン管理

悪意のある拡張機能のほとんどに、background.jsに格納されているメインのJavascriptコードと一緒に、conf.jsという名前のファイルが含まれていました。このconf.js(conf.jsがない場合はmanifest.jsonまたはbackground.js)ファイルには、C2 のホスト名(たとえばkrestinaful[.]comtobepartou[.]com)、検証ヘッダのddの値、拡張機能名、バージョンといったその拡張機能に関する構成内容が格納されています。バージョン情報は正確なようです。私たちが確認したバージョン(2.0、3.0、4.0、4.3、4.4)には、若干違いが見られます。亜種とバージョンの関係の考えかたについては「ChromeLoaderマルウェアとは」を確認してください。

バージョン2.0(初認: 2022-01-04):

存在しない機能:

  • 被害者に向けた広告の表示
  • Yahoo!、Bingの各検索エンジンからのクエリ収集 (Google については収集する)
  • 既存のブラウザの拡張機能の削除

バージョン3.0(2022-01-06):

追加された機能:

  • Yahoo!とBingからの検索エンジンクエリ収集 (Googleからの収集に追加)
  • SetWithExpiry()GetWithExpiry()関数を追加。前者は変数(クエリのURLなど)の保存、後者は既存の拡張機能の削除を行う
  • 既存の拡張機能を削除する仕組み

4.x バージョン (2022-01-07):

追加された機能:

  • スクリプト全体でのより高度な難読化
  • Chromeの広告機構
  • ハードコードされたC2 URLを変更
  • Chromeアラームの仕組み

macOS版の亜種

2022年3月、macOSユーザーを標的とした新たな亜種が出現しました。この亜種は本稿執筆時点でもまだアクティブで、これまでのものと同様のテクニックでペイロードのインストールや動作の隠蔽を行います。感染ベクトルも同じで、被害者を侵害されたPay-Per-Download(PPD: ダウンロードごとに課金される)サイトに誘導してドロッパーをインストールさせます。

この亜種では、ドロッパーはディスクイメージ(DMG)ファイル(macOSのISOファイル実装)で、このなかにbashスクリプトが1つとほかのファイルが複数含まれています。このbashスクリプトはスケジュールされたPowerShellスクリプトと複数の点で似ています。

  • リモートのインストールサーバーからペイロードであるブラウザ拡張機能をダウンロードする
  • 標的ブラウザであるGoogle Chromeと内蔵Safariブラウザにペイロードをロードする
ChromeLoaderのmacOSインストールスクリプトの初期バージョンの例。
図31 macOSのインストールスクリプトの初期バージョンの例

もっと後のケースでは、bashスクリプトにダウンロードと実行の部分をハードコードせず、これらのコマンドを別のファイル内にエンコードし、bashスクリプトでOpenSSLを使ってデコードして実行しています。

macOS用ChromeLoaderの後期バージョンのインストールスクリプトの例
図32 後期バージョンのmacOSのインストールスクリプトの例

ダウンロードされた拡張機能はWindows版で使われているものと同様でした。macOS版の亜種も同じ難読化手法を使って検索エンジンのクエリ収集・広告表示という重要な機能を実行しています。またこのバージョンから新たなC2アドレスが使用されるようになりました。

この亜種が配信した悪意のある拡張機能のバージョン番号から、攻撃者がmacOS版の亜種をWindows版の亜種より新しいバージョンとして参照していることがわかりました。このことは、同キャンペーンの感染タイムラインと一致しています。私たちの調査では、この亜種と同時に見つかった拡張機能は同マルウェアのバージョン6.0とラベリングされていました。

2つめのWindows版亜種(亜種2)

2022年3月、亜種1の最後の感染から数週間後、亜種1のキャンペーンと複数の類似点を持つ新しいキャンペーンを確認しました。このことから私たちは、実際に、同じChromeLoaderマルウェアの別亜種(本ブログではこれを「亜種2」と呼びます)を目にしていたものと考えています。

この亜種2の感染ベクトルは亜種1と同一です。ユーザーは、Pay-Per-Install (PPI: インストールごとに支払いを行う)サイトやソーシャルメディア上のマルバタイジングキャンペーンを通じ、トレントやクラックされたビデオゲームのダウンロードへと誘導されます。

亜種2で使用されるISOイメージには新しい実行ファイルが含まれています。Windowsのショートカットファイル(.lnk)しか表示されないため、被害者はこのファイルをダブルクリックして目的のソフトウェアをインストールしたり、ムービーを見たりしようとしてしまいます。

亜種2で使用されるISOイメージには新しい実行ファイルが含まれています。この図に示すとおり、Windowsのショートカットファイル(.lnk)しか表示されないため、被害者はこのファイルをダブルクリックして目的のソフトウェアをインストールしたり、ムービーを見たりしようとしてしまいます。
図33 悪意のあるISOがマウントされた例

しかしこのISOイメージには、被害者がWindowsのショートカット(.lnkファイル)を起動したときに実行される他の隠しファイルが含まれています。この.lnkファイルは単純にresources.batという名前のバッチスクリプトを実行するだけです。つづいてこのスクリプトがapp.zipの中身を%APPDATA%に展開します。zip アーカイブにはTone.exeという名前の実行ファイルが含まれており、最終的にバッチスクリプトによってレジストリのRunキーに格納され、感染が永続化されます。

.lnkファイルは、この図のようにresources.batという名前のバッチスクリプトを実行します。
図34 リンクファイル(.lnk)の設定例
resources.batの内容の例Tone.exeという実行ファイルの存在に注意
図35 resources.batの内容の例

亜種1同様、亜種2も同じ種類のChrome拡張機能をインストールしていました。このマルウェアはcmd.exeプロセスを起動し、このcmd.exeが次にpowershell.exeを実行していました。PowerShellプロセスはWMIクエリを実行し、これらのクエリがchrome*という新しいスケジュールタスクをインストールするために使われ、別のエンコードされたPowerShellコマンドを起動していました。

マルウェアがスケジュールタスクをインストールするさいの因果連鎖(causality chain)の例
図36 マルウェアがスケジュールタスクをインストールするさいの因果連鎖(causality chain)の例

上記の難読化されたPowerShellスクリプトを解析したところ、ドロッパーとして使われているスクリプトに行き当たりました。このスクリプトは新しいChrome拡張機能を直接インストールしないので、亜種1のPowerShellスクリプトのパターンに完全には一致していません。ただし構造や変数の使いかたは、亜種1のものに似ています。

インストールされたスケジュールタスクスクリプトをデコードした内容の例。構造と変数の使いかたは亜種1のものに似ている。
図37 インストールされたスケジュールタスクスクリプトをデコードした内容の例。

XQLクエリを使って調べたところ、インストールサーバーが利用できる場合このPowerShellスクリプトはこれまで見てきた悪意のあるChrome拡張機能(最新のMacOSの亜種で使用されているバージョン6.0)を作成してロードしています。

エンコードされたPowerShellが複数のファイルをダウンロード。それらのファイルには、manifest.jsonとbackground.jsが含まれる。
図38 エンコードされたPowerShellが複数のファイルをダウンロード。

本当の最初のWindows亜種(亜種0): 2021年12月

このマルウェアファミリは複数の感染インシデントを引き起こしたことから、サイバーセキュリティ界隈で世界的に注目されてきました。

前述のとおり今回の調査ではさまざまなバージョンのマルウェアが検出されました。各バージョンは私たちによるラベリングのほかにマルウェア作者自身によるラベリングが行われていました。私たちが検出したもののうち、ラベリングされている最も古いバージョンは2.0でしたので、私たちはこの攻撃者の攻撃は今回が初めてではないことを確信していました。そこで私たちは、このマルウェアの実際の最初のバージョンを明らかにすることを決意しました。

攻撃者はペイロードを頻繁に更新していたことから考えて、本当の最初の感染事例は、2022年1月に報告のあった感染事例と比較的近い時期に発生したものと考えられました。

亜種1のPowerShellドロッパーに使用されたインストールサーバーのドメインを軸足に調査範囲を広げてみると、2021年12月に別のマルウェアがこれらのドメインのいくつかをインストールサーバーとして使っていたことがわかりました。

このマルウェアは、スクリプトの自動化に使われるフレームワーク、AutoHotKey(AHK)で記述された実行ファイルでした。

プログラマは、このツールを使ってスクリプトをAHK構文で短くわかりやすく書けます。そして、プログラマの定義内容にしたがって、同フレームワークはこれらスクリプトの実行をトリガーする対象のフックを作成します。

AHKスクリプトは、Windows実行ファイルに変換されるときに元のスクリプトのソースコードを実行ファイルの末尾に貼り付けるので、難読化されたほかの亜種と比べてリサーチャーの調査プロセスははるかに容易でした。この例はハードコードされたスクリプトに以下のソースコードを含んでいましたが、これは先に分析したPowerShellドロッパーと非常によく似ていました。

AutoHotKeyスクリプトの内容の例。先に分析したPowerShellドロッパーと非常によく似ている。
図39 AutoHotKeyスクリプトの内容の例。

要するに、このドロッパーはインストールサーバーからペイロードをダウンロードしてくるものです。ダウンロードされたペイロードに使用されている変数名(Extension_Name)からすると、このペイロードはまた別のブラウザ拡張機能であると推測されます。

さらに詳しく調査した結果、ダウンロードされた拡張機能が見つかりました。ChromeLoaderマルウェアファミリに関連する機能も含まれていた点には何も驚きはないですが、バージョン1.0のラベリングがされていた点は重要です。

これらの拡張機能は、このファミリと関連する他の拡張機能と非常によく似ていますが、1つだけ大きな違いがあります。この時点で拡張機能は難読化されていないのです。これにはさまざまなコードのセクションに関する作者のコメントまで含まれていました。

ChromeLoaderの亜種0でダウンロードされた拡張機能の例。私たちは変更を加えていない。
図40 ChromeLoaderの亜種0でダウンロードされた拡張機能の例。私たちは変更を加えていない。

結論

このブログでは不正広告を利用して拡散する新しいマルウェアファミリ「ChromeLoader」のさまざまなサンプルを解説しました。このマルウェアはサイバー犯罪者やマルウェア作者の継続力がいかほどのものかを示すものでした。ChromeLoaderの作者は短期間のうちに複数の異なるコードバージョンをリリースし、複数のプログラミングフレームワークを使用し、機能強化や高度な難読化、問題修正、さらにはWindowsとmacOSの両方をターゲットにしたクロスプラットフォームサポートの追加までも行っています。

このマルウェアは、被害者のブラウザ検索をハイジャックし、広告を表示するために使用されます。これら2つの行為はさほど深刻な被害をもたらしたり、非常に機微なデータを漏えいしたりはしていませんが、短期間にこれほど広く拡散しえたことを考えると、このChrome機能拡張の2つの主機能による被害よりもずっと重い損害を与えることも可能だったでしょう。

またこの作者のやりかたは非常にきちょうめんで、異なるバージョンのマルウェアにラベリングしたり、攻撃ルーチン全体で類似したテクニックを使用したりしていました。このきちょうめんさのおかげで、攻撃フレームワークの開発や攻撃チェーンの維持は彼らにとって容易であったと思われます。ただしそれは、意図せずして私たちの調査作業をも大幅に簡略化してくれました。実際、そのおかげで私たちの調査が進み、このマルウェアの最初のバージョンと最新のバージョンという、これまでこのマルウェアファミリにリンクされていなかった2つの新しいバージョンを検出することができました。

最後に、この攻撃チェーンは、セキュリティ製品だけでなく一般ユーザーも注意すべき、マルウェア作者たちの間にある2つの上昇トレンドを示しています。それはISO(およびDMG)ファイルの利用とブラウザ拡張機能の利用です。

製品による保護

弊社のCortex XDR Prevent/Proをご利用のお客様は、ChromeLoaderがその実行のさまざまなステージで利用する戦術や技術を特定する機械学習ベースのローカル分析モジュール、BTP(振る舞い脅威保護)、BIOC、Analytics BIOCルールによる多層防御によって、こうしたキャンペーンから保護されています。

ほとんどのルールはChromeLoader用にカスタマイズされたものではなく、通常と異なる、あまり見ない振る舞いに基づいているため、同様の手法を使う多くのマルウェアファミリのキャンペーンからの防御も提供されます。

以下のルールは、Cortex XDRをご利用のお客様向けに、このマルウェアをさまざまな段階でブロックする振る舞い検出・防止策を提供するものです。

ルール名 説明
Power Empire - 2280642765 Power Empire post-exploitation framework
PowerShell Activity - 83290630 Suspicious PowerShell activity
PowerShell Activity - 1683698903 Suspicious PowerShell activity
PowerShell Activity - 1038764491 Suspicious PowerShell activity
PowerShell Activity - 2677692363 Suspicious PowerShell activity
Suspicious Scheduled Task Installed - 161058768 Potential malware granted persistency via scheduled task
Suspicious File Dropped - 1664970582 Potential malware dropped a suspicious payload executable
Suspicious File Dropped - 1833473256 Potential malware dropped a suspicious payload executable
Suspicious Chromium Extension - 4043645859 Potential malware tries to load malicious extension to victim's browser
Staged Malware Activity - 2903131508 Activity similar to ChromeLoader malware
Staged Malware Activity - 4059467241 Activity similar to ChromeLoader malware

さらに以下のXQLクエリを使用することで、異なる実行段階にあるChromeLoader亜種を検出できます。

亜種1(1月) – インストーラ

亜種2(3月) – スケジュールタスクのインストーラ

亜種2 (3月) – Tone.exeの展開

macOS版の亜種 – 拡張機能のダウンロード(展開)

不審なブラウザ拡張機能のロード

WildFireを使用しているパロアルトネットワークスのお客様もこの脅威からの保護を受けています。

IoC

亜種1のISOハッシュ

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亜種1の実行形式ハッシュ(別名 CS_Installer.exe)

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亜種2のISOハッシュ

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亜種2の実行形式ハッシュ(別名 Tone.exe)

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亜種0の実行可能ファイルのハッシュ

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macOS用DMGのハッシュ

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zip圧縮済み拡張機能のハッシュ

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