D-Linkの機器を狙うMirai亜種MooBot

Conceptual image representing IoT security, including the MooBot attacks targeting D-Link devices that are discussed here.

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概要

8月上旬、Unit 42のリサーチャーは、ネットワークおよび接続製品を専門とするD-Link製のデバイスに存在する複数の脆弱性を利用した攻撃を発見しました。悪用された脆弱性は以下の通りです。

  • CVE-2015-2051: D-Link HNAP SOAPAction Header Command Execution Vulnerability (D-Link HNAP SOAPActionヘッダにおけるコマンド実行の脆弱性)
  • CVE-2018-6530: D-Link SOAP Interface Remote Code Execution Vulnerability (D-Link SOAP Interfaceにおけるリモートコード実行の脆弱性)
  • CVE-2022-26258: D-Link Remote Command Execution Vulnerability (D-Link製品のリモートコマンド実行の脆弱性)
  • CVE-2022-28958: D-Link Remote Command Execution Vulnerability (D-Link製品のリモートコマンド実行の脆弱性)

侵害を受けた場合、これらの機器は完全に攻撃者のコントロール下に置かれます。攻撃者はこれらの機器を利用し、分散型サービス拒否(DDoS)攻撃などのさらなる攻撃を行えます。Unit 42のリサーチャーが捉えたエクスプロイト試行は、Linuxを稼働する公開ネットワーク機器を標的とし、前述の脆弱性を悪用して、MooBotというMiraiの亜種を拡散させるものでした。

D-Linkは本稿に記載した全脆弱性についてセキュリティ情報を公開していますが、パッチが適用されていないか古いバージョンのデバイスを使っているユーザーはまだ存在する可能性があります。Unit 42は可能な限りアップグレードやパッチを適用することを強く推奨します。

パロアルトネットワークスの次世代ファイアウォール製品をお使いのお客様は、IoT Security、Advanced Threat Prevention、WildFire、Advanced URL Filteringなどのクラウド提供型セキュリティサービスでエクスプロイトのトラフィックやマルウェアを検出・ブロックすることによる保護を受けています。

Unit 42の関連トピック IoT, Mirai

目次

キャンペーン概要
悪用される脆弱性
D-Linkのエクスプロイトペイロード
マルウェアの分析
結論
IoC
追加リソース

キャンペーン概要

図1に攻撃の全体像を示します。

1. 攻撃者はCVE-2015-2051、CVE-2018-6530、CVE-2022-26528、CVE-2022-28958を利用し脆弱性のあるデバイスを悪用2. ダウンローダーがリモートホストからMooBotのバイナリを要求3. C2サーバーと通信4. 侵害された端末がC2コマンドに基づきほかの端末への攻撃を開始
図1. キャンペーン概要

悪用される脆弱性

この攻撃では既知の脆弱性が4つ悪用されていました。悪用に成功すると、wgetユーティリティを実行してマルウェアインフラからMooBotサンプルをダウンロードし、ダウンロードしたバイナリを実行します。脆弱性に関連する情報を表1に示します。

ID 脆弱性 説明 深刻度
1 CVE-2015-2051 D-Link HNAP SOAPAction Header Command Execution Vulnerability (D-Link HNAP SOAPActionヘッダにおけるコマンド実行の脆弱性) CVSS バージョン 2.0: 10.0 高
2 CVE-2018-6530 D-Link SOAP Interface Remote Code Execution Vulnerability (D-Link SOAP Interface のリモートコード実行の脆弱性) CVSS バージョン 3.0: 9.8 緊急
3 CVE-2022-26258 D-Link Remote Command Execution Vulnerability (D-Link製品のリモートコマンド実行の脆弱性) CVSS バージョン 3.0: 9.8 緊急
4 CVE-2022-28958 D-Link Remote Command Execution Vulnerability (D-Link製品のリモートコマンド実行の脆弱性) CVSS バージョン 3.0: 9.8 緊急

表1 悪用された脆弱性の一覧

D-Linkのエクスプロイトペイロード

攻撃者は、D-Linkの4つの脆弱性を利用してリモートからコードを実行し、ホスト159.203.15[.]179からMooBotダウンローダをダウンロードします。

1. CVE-2015-2051: D-Link HNAP SOAPAction Header Command Execution Vulnerability (D-Link HNAP SOAPActionヘッダにおけるコマンド実行の脆弱性)

CVE-2015-2051のエクスプロイトペイロード。ホスト159.203.15[.]179に接続している。このホストからMooBotダウンローダにアクセス可能
図2. CVE-2015-2051のエクスプロイトペイロード
このD-Linkの旧型ルーターを標的としたエクスプロイトでは、HNAP SOAPインターフェースの脆弱性が利用されます。攻撃者はブラインドOSコマンドインジェクションによりコードを実行できます。

2. CVE-2018-6530: D-Link SOAP Interface Remote Code Execution Vulnerability (D-Link SOAP Interface のリモートコード実行の脆弱性)

CVE-2018-6530のエクスプロイトペイロード。ホスト159.203.15[.]179に接続している。このホストからMooBotダウンローダにアクセス可能
図3. CVE-2018-6530のエクスプロイトペイロード
このエクスプロイトは、D-Linkの旧型ルーターがSOAPインターフェースへリクエストを送信するさい「service」パラメータをサニタイズせずに使用する点を突きます。この脆弱性が悪用されると認証なしでリモートコードを実行される可能性があります。

3. CVE-2022-26258: D-Link Remote Code Execution Vulnerability (D-Link製品のリモートコード実行の脆弱性)

CVE-2022-26258のエクスプロイトペイロード。ホスト159.203.15[.]179に接続している。このホストからMooBotダウンローダにアクセス可能
図4. CVE-2022-26258のエクスプロイトペイロード
この脆弱性は/lan.aspコンポーネントに存在するコマンドインジェクションの脆弱性を突くものです。このコンポーネントは、HTTPパラメータDeviceNameの値を正常にサニタイズしておらず、これが原因で任意のコマンドを実行される可能性があります。

4. CVE-2022-28958: D-Link Remote Code Execution Vulnerability (D-Link のリモートコード実行の脆弱性)

CVE-2022-28958のエクスプロイトペイロード。ホスト159.203.15[.]179に接続している。このホストからMooBotダウンローダにアクセス可能
図5. CVE-2022-28958のエクスプロイトペイロード
このエクスプロイトは/shareport.phpコンポーネントに存在するリモートコマンド実行の脆弱性を突くものです。このコンポーネントは、HTTPパラメータvalueの値を正常にサニタイズしておらず、これが原因で任意のコマンドを実行される可能性があります。

マルウェアの分析

この攻撃に関連するすべてのアーティファクトを次の表に示します。

ファイル名 SHA256 説明
rt B7EE57A42C6A4545AC6D6C29E1075FA1628E1D09B8C1572C848A70112D4C90A1 スクリプトダウンローダ。感染システムにMooBotをダウンロードしバイナリファイル名をRealtekに変更する
wget[.]sh 46BB6E2F80B6CB96FF7D0F78B3BDBC496B69EB7F22CE15EFCAA275F07CFAE075 スクリプトダウンローダ。感染システムにMooBotをダウンロードしバイナリファイル名をAndroidに変更する
arc 36DCAF547C212B6228CA5A45A3F3A778271FBAF8E198EDE305D801BC98893D5A MooBotの実行ファイル
arm 88B858B1411992509B0F2997877402D8BD9E378E4E21EFE024D61E25B29DAA08 MooBotの実行ファイル
arm5 D7564C7E6F606EC3A04BE3AC63FDEF2FDE49D3014776C1FB527C3B2E3086EBAB MooBotの実行ファイル
arm6 72153E51EA461452263DBB8F658BDDC8FB82902E538C2F7146C8666192893258 MooBotの実行ファイル
arm7 7123B2DE979D85615C35FCA99FA40E0B5FBCA25F2C7654B083808653C9E4D616 MooBotの実行ファイル
i586 CC3E92C52BBCF56CCFFB6F6E2942A676B3103F74397C46A21697B7D9C0448BE6 MooBotの実行ファイル
i686 188BCE5483A9BDC618E0EE9F3C961FF5356009572738AB703057857E8477A36B MooBotの実行ファイル
mips 4567979788B37FBED6EEDA02B3C15FAFE3E0A226EE541D7A0027C31FF05578E2 MooBotの実行ファイル
mipsel 06FC99956BD2AFCEEBBCD157C71908F8CE9DDC81A830CBE86A2A3F4FF79DA5F4 MooBotの実行ファイル
sh4 4BFF052C7FBF3F7AD025D7DBAB8BD985B6CAC79381EB3F8616BEF98FCB01D871 MooBotの実行ファイル
x86_64 4BFF052C7FBF3F7AD025D7DBAB8BD985B6CAC79381EB3F8616BEF98FCB01D871 MooBotの実行ファイル

表2 攻撃関連アーティファクト

Unit 42のリサーチャーはダウンロードしたマルウェアサンプルを分析しました。その振る舞いとパターンから、159.203.15[.]179でホストされていたマルウェアのサンプルは、MooBotと呼ばれるMiraiボットネットの亜種と関連していると考えられます。

MooBotの最も分かりやすい特徴は、w5q6he3dbrsgmclkiu4to18npavj702fという文字列を含む実行ファイルであることです。この文字列からは、以下の図のようなランダムな英数字の文字列が生成されます。
図6. MooBotのランダム文字列ジェネレータ

MooBotの最も分かりやすい特徴は、w5q6he3dbrsgmclkiu4to18npavj702fという文字列を含む実行ファイルであることです。この文字列からランダムな英数字の文字列が生成されます。

実行時、このバイナリファイルはコンソールにget haxored!と表示し、ランダムな名前のプロセスを生成し、実行ファイルを消去します。

このスクリーンショットはMooBotがランダムな名前のプロセスを生成する様子を示している。
図7 MooBotによるプロセス生成

MooBotは、デフォルトのログインクレデンシャルやボットネットの設定を埋め込んだデータセクションというMiraiの最重要機能は継承していますが、Miraiの暗号化キー0xDEADBEEFは使わず、0x22でデータを暗号化しています。

赤い矢印はユーザー名のデコードとパスワードのデコードを示している
図8 MooBotの設定デコード用関数

設定からC2サーバーvpn.komaru[.]todayをデコードすると、MooBotはこのC2サーバーに新しいMooBotがオンラインになったことを知らせるメッセージを送信します。このメッセージはハードコードされたマジックナンバー0x336699で始まります。

私たちが分析した時点でこのC2サーバーはオフラインでした。コード分析にもとづくと、MooBotはC2サーバーにハートビートメッセージを送信し、C2からのコマンドをパースして、特定のIPアドレスとポート番号に対するDDoS攻撃を開始することになっています。

結論

本稿で取り上げた脆弱性はセキュリティ上重大な影響を及ぼす可能性があります。攻撃の複雑性が低く、リモートからコードを実行される可能性があるためです。ひとたびコントロールを奪取した攻撃者は、新たにデバイスを侵害してボットネットに含めることで優位に立ち、DDoSなどのさらなる攻撃を行えるようになります。

そのため、可能な限りパッチやアップグレードを適用することを強くお勧めします。

パロアルトネットワークスのお客様は、以下の製品とサービスによってこれらの脆弱性やマルウェアからの保護を受けています。

  • 次世代ファイアウォールで脅威防御サブスクリプションを利用し、ベストプラクティスに従って運用されているお客様は本脆弱性のエクスプロイトから保護されています。対応する脅威防御のシグネチャは、38600929609295992533です。
  • WildFireは静的シグネチャ検出により同マルウェアを阻止します。
  • 弊社のIoT Securityプラットフォームは、ネットワークトラフィック情報を使ってデバイスベンダ、モデル、ファームウェアのバージョンを特定し、前述のCVEに対して脆弱な特定デバイスを識別できます。
  • Advanced URL FilteringDNSセキュリティでC2ドメインやマルウェアのホストURLをブロックできます。
  • このほかIoT Securityは機械学習ベースの異常(アノマリ)検知機能を内蔵しており、デバイスが平時と異なる振る舞いを見せた場合にはお客様に警告できます。たとえば、唐突に新たな接続元からのトラフィックが出現したり、接続数が異常に増えたり、IoTアプリケーションのペイロードで通常見られる特定の属性が、不可解に急増した場合などです。

IoC

インフラ

MooBotのC2

vpn.komaru[.]today

マルウェアホスト

http://159.203.15[.]179/wget.sh
http://159.203.15[.]179/wget.sh3
http://159.203.15[.]179/mips
http://159.203.15[.]179/mipsel
http://159.203.15[.]179/arm
http://159.203.15[.]179/arm5
http://159.203.15[.]179/arm6
http://159.203.15[.]179/arm7
http://159.203.15[.]179/sh4
http://159.203.15[.]179/arc
http://159.203.15[.]179/sparc
http://159.203.15[.]179/x86_64
http://159.203.15[.]179/i686
http://159.203.15[.]179/i586

アーティファクト(侵害の痕跡)

シェルスクリプトダウンローダ

ファイル名 SHA256
rt B7EE57A42C6A4545AC6D6C29E1075FA1628E1D09B8C1572C848A70112D4C90A1
wget[.]sh 46BB6E2F80B6CB96FF7D0F78B3BDBC496B69EB7F22CE15EFCAA275F07CFAE075

表3 シェルスクリプトダウンローダ

MooBotのサンプル

ファイル名 SHA256
arc 36DCAF547C212B6228CA5A45A3F3A778271FBAF8E198EDE305D801BC98893D5A
arm 88B858B1411992509B0F2997877402D8BD9E378E4E21EFE024D61E25B29DAA08
arm5 D7564C7E6F606EC3A04BE3AC63FDEF2FDE49D3014776C1FB527C3B2E3086EBAB
arm6 72153E51EA461452263DBB8F658BDDC8FB82902E538C2F7146C8666192893258
arm7 7123B2DE979D85615C35FCA99FA40E0B5FBCA25F2C7654B083808653C9E4D616
i586 CC3E92C52BBCF56CCFFB6F6E2942A676B3103F74397C46A21697B7D9C0448BE6
i686 188BCE5483A9BDC618E0EE9F3C961FF5356009572738AB703057857E8477A36B
mips 4567979788B37FBED6EEDA02B3C15FAFE3E0A226EE541D7A0027C31FF05578E2
mipsel 06FC99956BD2AFCEEBBCD157C71908F8CE9DDC81A830CBE86A2A3F4FF79DA5F4
sh4 4BFF052C7FBF3F7AD025D7DBAB8BD985B6CAC79381EB3F8616BEF98FCB01D871
x86_64 3B12ABA8C92A15EF2A917F7C03A5216342E7D2626B025523C62308FC799B0737

表4 MooBotのサンプル

追加リソース

ネットワークセキュリティ機器を標的にする新しいMirai亜種 - パロアルトネットワークス Unit 42
2020年冬のネットワーク攻撃傾向『脅威のインターネット』(2020年11月〜2021年1月) - パロアルトネットワークス Unit 42